大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所舞鶴支部 昭和33年(む)235号 判決 1958年10月23日

被疑者 西村清子

決  定

(準抗告人・被疑者氏名略)

右被疑者に対する不法監禁、公務執行妨害被疑事件につき、昭和三十三年十月二十二日峰山簡易裁判所裁判官北村貞一郎のなした勾留請求却下の裁判に対し同日右検察官から準抗告の申立があつたので、当裁判所はつぎのとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

本件準抗告申立の理由は別紙申立理由書のとおりである。

案ずるに、本件捜査記録によれば、本件の場合被疑者が所論のように罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとは考えられない。よつて本件準抗告の申立は理由のないものとして刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項に従い主文のとおり決定する。

(裁判官 庄田秀麿 森山淳哉 白須賀佳男)

理由書

不法監禁、公務執行妨害 (被疑者氏名略)

右の者に対する頭書被疑事件につき昭和三十三年十月二十二日峰山簡易裁判所裁判官北村貞一郎がなした右被疑者に対する勾留請求却下の決定に対し不服のため即日準抗告の申立をしたが、その理由は左記のとおりである。

第一、本件逮捕の被疑事実は、

被疑者は他の組合員と共謀の上学力調査を妨害する目的をもつて昭和三十三年九月二十五日午前九時二十五分頃京都府熊野郡久美浜町字橋爪、京都府久美浜高等学校校長室事務室において、京都府教育委員会指定計画の学力調査実施のため試験官、同補助官として来校していた教育公務員である京都府教育委員会奥丹後地方教育局指導主事堀博四十七才外二名が調査実施のために試験場に赴かんとしたところ高教組久美浜分会組合員約二十名を動員して校長室、事務室の出入口の戸を閉鎖し、その前に組合員を二列に並べて椅子に腰かけさせ或いは出入口に立ふさがり外側から施錠する等その出入を不可能ならしめ、前記試験官、同補助官三名に対して「たとえ校長室を出ても 下や教室で混雑が起るかもわからない。そんな混乱の場を生徒にみせてもよいか」云々等と脅迫し、約一時間に亘つて不法に監禁し以て公務の執行を妨害したものである。

第二、原決定は被疑者に勾留の理由がないものとして検察官の勾留請求を却下したのであるが、被疑者に勾留の理由のあることは明白でありその理由は左記の通りである。

一、被疑者には罪を犯したと疑うに足る相当の理由がある。

勾留請求書に添付した資料を検討するに

1 被疑者は久美浜高等学校の職員で高教組久美浜分会の組合員であるから同分会が学力テストを阻止する意図の下に行動することを知つており

2 学力テスト実施当日分会員多数が校長室、事務室において学力テストを阻止する目的の下に、試験官、同補助官等に交渉中、校長室に続く事務室とガラス戸を隔てた隣りの第一教官室及校長室の出入口等にいたのであるから室内の状況を知つていたものと推認される。

3 被疑者は分会員が試験官の学力テストの実施を阻止する手段として試験官等を室内に監禁するに当り校長室、事務室の出入口の戸の附近において室内の分会員等と意思を通じこれに協力して室内の分会員の出入の際の施錠をなすことを担当したものであることが認められる。

以上の点からして被疑者には多数分会員と共謀し不法監禁による公務執行妨害の罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるものと思料する。

二、次に被疑者に証拠湮滅をする虞ありや否やを検討するに

1 本件についての現在までの検察官の捜査状況は次の通りである。

(イ) 共犯者たる高教組久美浜分会、分会長橋本信一、同分会書記長辻能順を勾留取調中であるが、同人等は全面的に供述拒否又は黙否し同人等より何等の証拠を得られない状況にある。

(ロ) 共犯者たる久美浜高校事務員吉岡和子を昭和三十三年十月十二日逮捕、同月十四日勾留して取調べ一応の供述を得たが、同人が拘禁性神経症にあるため長期の勾留を避け、即日釈放したので事案の真相を把握し得る様な充分な供述を得られなかつた。

(ハ) 被害者たる試験官堀博外二名につき供述調書を作成することができたが、同人等は施錠されて室内に監禁されたため室内の状況しか判らず、室外の状況特に何人の指図により誰が施錠したかの点については明確な供述は得られない。

(ニ) 被疑者は一件資料によれば校長室の出入口の鍵の施錠等をした本件の実行行為者であるが、完全黙否し供述を拒否している。

(ホ) 本件は室内において交渉に参加した分会員多数の取調べが必要であるが教育公務員である点を考慮し、強制捜査を最少限に止めているためその取調べも進捗していないし何等の供述も得られていない。

以上のとおり捜査の現段階においては、本件の共謀関係施錠関係特に何人の指図により施錠したかの点等につき明確でなく、更にそれ等の点につき捜査をなさねばならぬ。

2 しかるに高教組は数十名或は数百名の集団を以て連日の如く被疑者の留置先なる宮津刑務支所に押し寄せ塀の周囲を旋回して労働歌を高唱し、携帯スピーカーを用いて話し声が聞える様に高声を発し、房内の被疑者に対し威圧を加え、又弁護人も連日の如く交互に所内に出入し被疑者の肩をたたき激励している状況にあり、被疑者はかかる周囲の威圧を受けているため頑強に黙秘し全面的に供述を拒否しているのである。しかも弁護人は鍵は戸を閉めれば自然に閉まるのであり、この鍵を施錠したものはないと検察官の面前で言明している。

3 被疑者は前記の如く本件の実行行為者で本件における重要被疑者であるが組合がかくの如く集団を以て威圧を加へている現状において、被疑者を釈放すれば組合の威圧により爾後において積極的な虚偽の供述をなす虞あるのみならず、他の分会員等の取調べが進んでいない現状においては、他の分会員(吉岡和子を含む)等と通謀し証拠を湮滅する虞があるものといわねばならない。

第三、以上の理由により原決定が被疑者に勾留の理由がないものとして被疑者に対する勾留請求並に接見禁止決定の請求を却下したことは不当であるから速やかに原決定を取消し勾留状を発付し接見禁止の決定をなされたい。

第四、なお右理由の疏明資料は別添のとおりである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例